蝦夷生計図説

キタイマコツプの図 

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キタイマコツプの図 

是は家のくミたてとゝのひてより、屋をふくさま也、
キタイマコツプといへるは、キタイは屋をいひ、マコツプは葺
事をいひて、屋をふくといふ事也、屋をふかんとすれは、蘆
簾あるは網の破れ損したるなとを屋をくミたてたる
木の上に敷て、其上に前に録したる葺草の中いつれ
なりともあつくかさねてふく也、こゝに図したるところハ
茅を用ひてふくさま也、この蘆簾あるハ網とふのものを
下に敷事ハ、くミたてたる木の間より茅のこほれ落るを
ふせくため也、家によりては右の物を用ひす、木の上を
すくに茅にてふく事もあれとも、多くは右のものを
下に敷事なり、

   ここにいふ蘆簾は夷人の製するところのものなり、
網といへるも同しく夷人の製するところのものにて、
木の皮にてなひたる縄にてつくりたるものなり、

すへて夷人の境、障壁とふの事なけれハ、屋のミにかき
らす、家の四方といへとも同しくその屋をふくところの
茅をもてかこふ事なり、其かこひをなすに二種の
ことなるあり、シリキシナイの辺よりビロウの辺ま
てのかこひは、 本邦の藩籬なとのことくに
ゆひまハして、家の四方を囲ふなり、ビロウの辺より
クナシリ嶋まてのかこひは、屋を葺てより其まゝ
家の四方にふきおろして囲ふ也、委しくハ後の
全備の図を見てしるへし、其茅をふく次第は、家の
くミたてとゝのひてより、まつ初に四方の囲ひをなし、
それより屋をふく事也、

   凡屋をふくにつきてハ、其わさことに多して、
此図一つにして尽し得へきにあらす、別に器
財の部のうち葺屋の具をわかちて録し
置り、合セ見るへし、

右の如く屋を葺事終りて、其家の右の方に
小きさげ屋を作りて是をチセセムといふ、チセは家
をいひ、セムはさげ屋といふ事なり、
さげ屋といふは、すへて 本邦の俗語に
本屋のつゝきに小き家を造り足す事をさげ
屋といふ事なり、

この家の図の右の方に、口のあきてあるは、其
チセセムを造るへきために明け置事也、後の全備
の図を見てその造れるさまをしるへし、是にて
まつ居家経営の事は終れり、これより後に
録するところは全備のさまをしるせるなり、

☆これは家の組み立てができてから屋根を葺くようすである。キタイマコツプというのは、キタイ【キタイ:kitay/てっぺん、屋根】は屋根をいい、マコツプ【アク*プ?:akup?/葺く】は葺くことをいうので、屋根を葺くということである。屋根を葺こうとするには、芦簾あるいは網の破れ損じたものなどを屋根を組み立てる木の上に敷いて、その上に前述の葺き草のうち、どれでも厚く重ねて葺くのである。ここに図示したのは茅を用いて葺いているようすである。
 この芦簾あるいは網などのものを下に敷くことは、組み立てた木の間より茅が零れ落ちるのを防ぐためである。家によってはそれらを使わず、木の上に直に茅で葺くこともあるけれども多くは右にあげたものを下に敷くのである。

   <註:ここでいう芦簾アイヌの人びとが造ったものである。網も同じくアイヌ製のもので
木の皮を綯って造ったものである。>

総じてアイヌの人びとの国には障子や壁などというものがないので、屋根ばかりではなく、家の四周さえも同様にその屋根を葺く茅で囲うの
である。その囲いをするのには二種類の方法のちがいがあって、シリキシナイあたりよりビロウあたりまでの囲いは、わが国の垣根などのように茅を結いまわして家の四方を囲うのである。また、ビロウのあたりよりクナシリ嶋までの囲いは屋根を葺いてから、そのまま家の四方に葺き下ろして囲うのである。詳しいことは後に示した全備の図をみて理解してほしい。
 その茅の葺き方の順序は、家の組み立てがおわってから、まず四方の囲いを造り、それから屋根を葺くのである。

   <註:大体において、屋根を葺くための技術はとりわけ多く、この図ひとつでいいつくす
ことはできない。別に「器財の部」の中に屋根葺きの道具を分けて記録しておいた
ので合わせてみてほしい。>

 以上のように屋根を葺き終ると、その家の右のほうに小さな「さげ屋」を造って、これをチセセムという。セム【セ*ム:sem/物置】はさげ屋ということである。
<註:さげ屋というのは、総じてわが国の俗語で、本屋に続きに小さな小屋を造り足すこ
とをいう。>

 この家の図の右の方に口を明けてあるのは、チセセムを造るためにあけたのである。後の全備の図をみてその様子を知ることができる。
☆ これで、とりあえず、家の建て方についてのことは終わる。これから後に記録してあるのは完成した様子を記してある。