蝦夷生計図説

アマヽシユケの図

  • 31
  • 30
  • 29
  • 28
  • 27
  • 26
  • 25
  • 24
  • 23
  • 22
  • 21
  • 20
  • 19
  • 18
  • 17
  • 16
  • 15
  • 14
  • 13
  • 12
  • 11
  • 10
  • 9
  • 8
  • 7
  • 6
  • 5
  • 4
  • 3
  • 2
  • 1
  • 34
  • 33
  • 32
  • 31
  • 30
  • 29
  • 28
  • 27
  • 26
  • 25
  • 24
  • 23
  • 22
  • 21
  • 20
  • 19
  • 18
  • 17
  • 16
  • 15
  • 14
  • 13
  • 12
  • 11
  • 10
  • 9
  • 8
  • 7
  • 6
  • 5
  • 4
  • 3
  • 2
  • 1

アマヽシユケの図

是はアユウシアマヽを烹るさまを図したる也、
アマヽシユケといふは、アマヽは穀食の事をいひ、シユケ
とは烹る事をいひて、穀食を烹るといふ事也、

穀食は炊くともいふへきを、烹るといへるものは、夷
人の境、未飯に為す事をハしらて、唯水を多く
入れ粥に烹る計りの事なるゆへ、かくは称する
なり、又ラタ子を食するは、汁に烹て喰ふ事也、

其食せんとする時、トイタに植をきたるを掘り
とり来りて、
   ラタ子はよく熟するといへとも、一時に残らす掘
とりて貯へ置といふ事はせす、植たるまゝにて
トイタにをき、食するたひことに掘り出して用ゆる
なり、但し寒気の甚しくして土地の氷れる
時に至れは、やむ事を得すしてミな掘り出して
貯へ置く也、

それを根菜ともにきりて、魚の肉と同しく鍋に
入れ、水をもて少しく塩けの有よふに烹て
食する也、是をラタ子ヲハワと称す、ヲハワトは
汁の事をいひて、ラタ子を入れたる汁といふ事也、

   すへて汁の実に魚を用ゆる事、夷人の常
食にて、ラタ子は其助けに用ゆる也、然るゆへに、
いつれ魚と雑へ烹る事にて、ラタ子計り烹ると
いふ事ハあらす、唯根の格別に大なるは、湯煮
になして食事の外に喰ふ事あり、 
本邦にいはんには、なを菓子なとに用ゆるか如し、
其汁の実の助となす物は、ラタ子の外にも
海苔あるは草とふを用ゆる事有、其草のかす
又多し、委しくは食草の部にミえたり、

右のうちアユウシアマヽは 本邦の事に
比していはんには、なを飯の如く、ラタ子はなを
菜汁とふの如き物なれとも、夷人の習ひ然る
事にさたまりたるにハあらす、二つともにいつれも
糧食となす事也、すへて此等の類の飲食に
かゝはりたる事は、専ら女の夷人の業となす事、
本邦にことなる事あらす、其食するさまの
委曲は後の図にミえたり、

この図は、アユシアママを煮る様子を描いたものである。アママシユケとは、「アママ」が穀物のことを、「シユケ」が煮ることを表し、合わせて「穀物を煮る」という意味である。

穀物であるから「炊く」というのが通常であろうところを「煮る」といっているのは、アイヌの人々の住む地域では、いまだに穀物を飯とすることを知らず、ただ水を多く入れ粥として煮るのみであることによる。また、ラタネは、汁に入れて煮て食する。

ラタネを食べようとするときには、トイタに植えておいたものを掘り取ってきて、
* ラタネは、よく熟した場合でもいっぺんに残らず掘り取って貯えておくようなことはしない。植えたままでトイタに放置しておき、食する度ごとに掘り出して用いる
のである。
そして寒気が甚だしくなり、地面が凍ってしまうような時に至り、やむを得ず皆掘り出して貯え置くのである。

根と葉を取り除いた上で、それを魚の肉と一緒に鍋に入れ、水により少々塩気がきくように煮て、食するのである。この料理をラタネヲハワという。「ヲハワ」とは汁のことを表し、「ラタネを入れた汁」という意味である。

* 概ねにおいて汁の実に魚を用いるのがアイヌの人々の常食であり、ラタネは付け合わせとして用いられる。従って、魚に交えて煮られるものであり、ラタネ単独で煮られるということはない。ただし、格別に大きな根は、そのまま茹でて食事とは別に食されることがある。
わが国でいうと、ちょうど菓子などとして用いるようなものである。なお、汁の実のとして付け合わされるものには、ラタネの他に、海苔や草などが挙げられる。その草の種類は少なくない。詳しくは、本稿「食草の部」に記されている。

二種の作物のうちアユシアママは、わが国でいうならば飯のようなもので、ラタネは同じく菜汁のようなものといえる。しかし、アイヌの人々の流儀では、そのように定まっているわけではない。両者ともに等価の糧食としているのである。なお、こうした飲食に関わる作業が専らアイヌ女性の領分であることは、わが国のそれと同様である。食事の様子の詳細については、次に掲げた図に示した通りである。